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「死なない建築」にみる
人間が進化する可能性

「死ぬ」という天命を反転させる為の
建築から我々は何を感じるべきか

荒川修作が人生を賭して創造した「死なない建築」は私たちの感覚を揺さぶり続け、人間の持つ可能性を示し続けている

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以前にご紹介したタイニーハウスムーブメントのように、ライフスタイルにおける住環境の新しい形として、断捨離などの

ミニマルな禅的思想ともリンクする動きがあり、そこに新たな可能性を感じる一方で、島国の農耕民族である日本人には

「移動」という環境変化が非常に大きな不安をもたらすということも事実であり日本では大きな広がりを見せることはない

のではないかと懐疑的な思いがあるのも事実です。

3.11をきかっけとして自分たちのライフスタイルを見直し、何が必要で何が不要なのかを考えたときにたどり着く必然的

な帰結として「どこにどうやって住むか」という問いが生まれますが、いつの間にかそういった問いは忘れ去られ駅前

にはまた新たな商業施設が生まれ、地方には紋切り型のショッピングモールがクローンのように次々とオープンし

画一化が進んでいく。

そんな景色を見るたびに、「住む」や「暮らす」ということの本質とは何のなかと考えずにはいられなくなる。

 

私たちを外的要因から隔離し、保護するための機能を有するという点において衣服と建築はその本質を有している

ということについては「建築とファッションの蜜月」も一読して頂きたいのだが、ここでは建築という手段を用いて

本質に迫る別の事例を紹介してみたいと思う。

 

利便性を追求することによって動物としての人間は、身体的に退化しているとも考えられるが紹介する荒川修作は

その流れに真っ向から反対している。

東京都三鷹市にある三鷹天命反転住宅や岐阜県にある養老天命反転地などが有名である彼は、前衛芸術家として

世界的に著名なアーティストである。

 

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http://www.node.ne.jp/

 

1936年に名古屋に生まれた荒川は武蔵野美術学校を中退し、1958年に読売アンデパンダン点に初出品。

その後1961年に瀧口修三の勧めでニューヨークへ渡る。

アメリカで生涯の伴侶となるマドリン・ギンズと出会い共同制作を始め、1970年にヴェネツィア・ヴィエンナーレに

おいて代表作となる「意味のメカニズム」を発表した。

その「意味のメカニズム」が称賛されマックス・プランク研究所に招待を受けるなど、アート界のみならず生物学や

脳科学、物理学など様々な分野の研究者との親交を持つなど特異な才能を発揮した人物である。

 

 

日本ではあまり一般に知られてはいないが、モダンアートの始祖として有名なマルセル・デュシャンとも親交の深く日本を

代表する芸術家である荒川は、芸術的表現の終着点として建築に熱心に取り組んでいた。

建築をアート(人工物)の最高到達点と位置付けていることには、建築ついて同様の位置づけを行っていたバウハウスとも

共通しているのではないかと私は考えている。

日本におけるネオ・ダダに始まり「意味のメカニズム」を経て、人間の自律的な行動の環境に直接的に影響を与える建築物

へと活動の範囲を広げていった荒川の作品として前述の天命反転住宅や天命反転地などはその名の通り、生けるものは

いつか必ず死ぬという天命に反するための建築物である。

1994年に奈義町現代美術館にて建築家の磯崎新と共同制作した「偏在の場・奈義の竜安寺・建築する身体」を発表した

ことを皮切りに、岐阜県養老町にテーマパークの「養老天命反転地」を建設。

その後、2005年に東京都三鷹市に「三鷹天命反転住宅」を建設するなど、思想を具現化していった。

 

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http://www2.fukujo.ac.jp/

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http://www.kankou-gifu.jp/

 

ここでは個人の住宅という観点から三鷹の天命反転住宅を取り上げたいと思うが、その外観は、岡本太郎の作品をも

想起させる鮮やかな色彩で彩られ、およそ機能的とは無縁の幾何学的な構造をしている。

ちなみに、荒川は岡本太郎とも親交があり、荒川をいたく気に入っていた岡本が三島由紀夫を紹介し、自己紹介代わりに

手渡した三島の著作を「下らない」と窓から投げ捨て、三島と大喧嘩したというエピソードがある。

 

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http://www.rdloftsmitaka.com/

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http://blogimg.goo.ne.jp/

 

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http://blog.damedasu.net/

 

斜めに傾き、凹凸がつけられた床など内部構造も一般的に暮らしやすいといわれるような住環境ではない。

公式HPによると、三鷹天命反転住宅 In Memory of Helen Keller は、芸術家/建築家の荒川修作+マドリン・ギンズに

よる、世界で最初に完成した「死なないための住宅」であり、この全9戸からなる集合住宅は、内外装に14色の

鮮やかな色が施され、一部屋一部屋の色の組合せが全く異なることから、「極彩色の死なない家」(瀬戸内寂聴氏)

として、東京西郊外の三鷹市のランドマーク的存在にもなっている。

2005年の完成以来、世界十数カ国から人々が訪れ、数々の新聞・雑誌・TV・インターネットサイトにも紹介され

続けているが、この建物の大きな特徴は訪れた人の身体を揺さぶる感覚が、人間の持つ可能性に気づかせて

くれることにあり、荒川修作+マドリン・ギンズの長年の研究から、一人一人の身体が中心となるよう、設計・構築

された空間と環境は、建築界にも大きな衝撃を与えています。

また、芸術作品の中に住める住宅として、今後の芸術が担うべき社会での役割の新しい提案とも言える。

「死なないための家」、そして In Memory of Helen Keller ~ヘレン・ケラーのために~ と謳われる理由には、

さまざまな身体能力の違いを越えて、この住宅には住む人それぞれに合った使用の仕方があり、その使用法は

自由であるということが言える。

3歳の子どもが大人より使いこなせる場所もあれば、70歳以上の大人にしかできない動きも生じます。

私たち一人一人の身体はすべて異なっており、日々変化するものでもあります。

与えられた環境・条件をあたりまえと思わずにちょっと過ごしてみるだけで、今まで不可能と思われていたことが

可能になるかもしれない=天命反転が可能になる、ということでもあります。

荒川修作+マドリン・ギンズは「天命反転」の実践を成し遂げた人物として、ヘレン・ケラーを作品を制作する

上でのモデルとしています。

三鷹天命反転住宅は、私たち一人一人がヘレン・ケラーのようになれる可能性を秘めています。

その意味において、三鷹天命反転住宅は「死なないための家」となるのです。

上記のように人の身体は外部環境からの刺激によって絶えず変化している。また変化すべきなのではないか。

お分かりのように荒川修作という人が目指したのは、死なないことである。

死なない身体を創るための建築が天命反転住宅であり、天命反転地である。

もちろん、現段階では命あるものはいつか必ず死ぬという宿命からは逃れられませんし、有限であるからこそ

生に意味を見いだせるとも考えられます。

個人的には死ぬという宿命から逃れたいとは思いませんが、荒川が目指した「死なない」ことを目指すことは

私たちの身体について考えることであり、身体を考えることは住環境を考えることに他なりません。

荒川はその考える行為とその実践を「建築する身体」と表現したのだと私は考えます。

 

不安定な状態で安定するという一見矛盾することを生活の中に取り入れることで、変化を愉しむことこそが

これからのライフスタイルに必要なことなのかもしれないと死してなお荒川修作が示していることではないか。

今回紹介した荒川が我々に遺した建築は、現在も一般に公開されているものばかりです。

秋の行楽シーズンに、実際に訪れて、鈍った感覚を揺さぶってみてはいかがだろうか。

忘れていた感覚を取り戻すきっかけになるかもしれませんよ。