Chrsitophe Lemaire パリへの招待状 | Epokal エポカル

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RED 感情

Chrsitophe Lemaire
Hermesが見せる
エスプリの光陰

クリストフ・ルメールが示すのは
ファッションの領域と完成された志向スタンス
エスプリという本物のパリの感触である

3minutes

Chrsitophe Lemaire
Hermesが見せる
エスプリの光陰

クリストフ・ルメールが示すのは
ファッションの領域と完成された志向スタンス
エスプリという本物のパリの感触である

3minutes

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物質と精神の異邦
ナショナリズムの裂目と
受け取れる喜び

もしかしたら「熱」かもしれない
この思いはパリへと向かっている

1990年代の前半期が過ぎようとしていた、僕が本当の少年であった頃、
ファッションというシーンをわずかな隙間から眺めていた。
初めてファッションという、人が着るものに対して、
イコール衣服という概念さえぼうっとしていた頃に見た世界を今、
こうして目の前で手放すのは言葉で表現でき得ない感覚である。

もしかしたら「熱」かもしれない、この思いはパリへと向かっている。

 

ファッションという曖昧でフワフワとした世界で、衣服に対して初めて
キレイだと感じさせられたコレクションがクリストフ・ルメールだった。

1994のS/Sシーズン、彼の色使い、ボーダーレスな服のかたちは
シルエットという全く新しい知見を12才の少年に与えた。
ファッションという境界を正確に理解したのだと、今はそう思う。

当時、代官山にChristophe Lemaireとして旗艦店があった。
奥に、DJスペースが据えられたゆったりとした場所だったという記憶がある。
忙しく動き回るセレクトショップがごく近所に立ち並んでいるというのに、
ルメールの店は商品がラックにぎゅうぎゅう詰めされることもなく、くつろいだ空間だった。

コレクション写真でファッションの領域を見せてくれたクリストフ・ルメールは、
今度はその完成された志向スタンスで明かりを灯した。
メーカーレーベルではない本物のパリコレクションの感触を確かに目の当たりにしたのである。

 

ワールドミュージックを愛したルメールの見た空は、遠く離れた極東にまで届いた。

僕の大事にしていた本に、アルベール・カミュの「反抗的人間」があった。
異邦人の草稿とされる「幸福な死」とともに、僕にとっての漠然としたフランス、パリの素描を色つけした。
カミュの理性に入れ込んでいた僕にとってはアルジェリア育ちという、たったこれだけの共通項が、
クリストフ・ルメールこそ世界の入り口だと思わせるのに十分な要素であった。
幸運のクローバーが枝葉のついたファッションという襞を纏わせたのである。

しかし同時に、ルメールのクリエイションがティーンエイジャーの手に負えないということもよくわかった。
シルエットと素材の審美的な色彩はパリそのものなのではないだろうか?
今になって思えば当然も当然、真当なことなのだが
クリストフ・ルメールの描くワールドミュージックこそエスプリそのものだったのだ。
フランス気質というよりもパリの気もちとも理解すべきこの概念に、早くも衝突っていた。

 

そうして2002年、ルメールは自身のシグネチャーラインを休止させて、ラコステのディレクターに就任。
このキャリアはラコステのアイデンティティやイメージを復活させることには成功したが、
そのクリエイションには何も感じることができなかった。

2006年にシグネチャーラインを「Lemaire」として再起動させるが、生産国は日本、
かつて代官山のやわらかい光につつまれた店は、ディストリビューションの変化からなのか、
表立った通りに移り、僕はそのまま、パリと幸運のクローバーを見失ってしまった。

 

元々がデザインを通した空気感のようなスタイルを得意としていただけに、
ディテールや雰囲気つくりにアイコニックなものが多かった。

ちょうど一丈分だけロングな袖、高いポジションのポケットや、必ずスタンドするカラーである。
リラックスするようで、気品のあるシルエットはルメールならではのカットであり、素材と色の使い方は格別であった。
フライフロントの構造線はジャケットの印象を大きくかえたのだと思う。
長袖のシャツを必ずまくって着るのがデザイナーの本質だということも学んだ。
やはりムルソーのイメージと重なってみえていた。それだけ最初期のコレクションの質を引きずっていたのだ。
ビジネスとして成果をあげているであろう本人に反して、クリエイションは確かにその影を失った。

そして2011年、A/Wコレクションからクリストフ・ルメールがパリの代名詞とも言うべく
エルメスのアーティスティックディレクターに就任するというニュースは、
既に流し見るトピック程度にしか感じられなくなっていた。

エスプリの光彩は過去への旅にしか映らなかったのである。

こうして、タイムレスでファッションレスであり、
またそれにさえ左右されるはずのないデザイナーはビッグメゾンの箱に自ら拘束された。と、ぼんやり考えていた。

 

ところが、一昨年たまたま通りかかったショーウインドウにかかるスカーフを見て、意識が逆立った。

間違えることなく、少年期に見たクリストフ・ルメールの血液が正絹の画面いっぱいに広がっていたのである。
ルメールのエスプリは死んでいなかった。

というどころか、エルメスという舞台で本来の気質が引き出されたかの様に、
一種の確立された世界が生まれていたのである。

 

a tale of esprit

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http://www.vogue.co.uk
 

コレクションの質は格段に上質になり、ルメールにとっても自身の信条をいっぱいに表現できる
メゾンを得られたことによってデザインという世界がより広く感じられたことだろう。

 

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本質である「エスプリ」はどのように解釈されるべきなのだろうか?

エルメスとの共存によって、「Christophe Lemaire」ブランドも良い影響を受け止めた様子が
ここ数シーズンのコレクションからでも伺える。現在、完全独立型企業のオーナーとして活動しているルメールは、
前述の通り、日常生活の中のスタイルをワードローブ構成することと、
パリの通りを心地よく過ごすためのクラシックでモダンな思考を共有して持続させることを掲げている。

 

a tale of esprit

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http://www.christophelemaire.com

 

このクラシックでモダンな思考こそ、パリのエスプリの源泉ではないかと思わされる。
1980年代の山本耀司や川久保玲は、パリコレクションで世界とモードを震撼させたが、
それには新しい生き方であることが必要であった。
以来、多くの非ヨーロッパ圏出身の偉大なデザイナーたちが活躍し、し続けているが、
それでも「パリのエスプリ」は少なくともヨーロッパの腹の底でしか咲かない花なのではないだろうか。

 

ここ日本にも多くの外国出身の方々がいるし、殊フランスはジャポニスムというムーブメントさえ興った国でもある。
が、どれだけの愛情があろうと外国からの出身は異邦人であることは変えられない。
日本を題材とした素晴らしい感性が在ったとしても、どこか違和というズレを感じることがある。
これが物事に新しい裂け目を生むのだし、新進の影響はそこから始まることに違いはない。
完璧であればあるほど、その裂け目は鋭利になるのだとも思う。

ここで言いたいのは、つまり、エスプリの何であるかは僕たちにはわからないということである。
ファッションでいうと、「イヴ・サンローラン」や「ディオール」の失われた時を求めてはいけないし、
またそうすることも出来ない。

作れるデザインと、作れないデザインがあって、クリストフ・ルメールのコレクションは
そのエスプリの断片を僕たちに見せているように感じるのである。

 

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http://www.christophelemaire.com
 
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こうして、2015年春夏シーズンを以てルメールのエルメスが幕を閉じる。

発表の時、彼のコメントは自らのシグネチャーラインに専念したいからというものであった。
以前からのインタビューを通してみても、インテリジェンスのあるデザイナーである。
様々な邪推は置いて、ここはひとつ言葉を信じてみたい。

エルメスという高峰に登ることで、少年時代に憧れた「Christophe Lemaire」が帰ってきた。

 

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ラストショーで手を振る姿は、きっと、今日はと言っている

これからたのしみなブランドを一つ持つ喜びに感謝したい

 

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